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「葉児、やつれてない?」
休み時間。教室のつくえでのびていると、誠がやってきた。
「こいつ、なんかバイトやってんだよ。これから大会って時にさ。しかも体力勝負の引っ越し屋。足腰ガタガタって、試合に出れねぇだろ?」
オレの横で、橋本がため息をつく。
「……ほっとけよ。試合ぐらい気合でなんとかする」
「また~。それきいたら、部長が怒るよ~?」
小池が前の席で笑った。
「ねぇ、なんで今、バイトよ。なにか買いたいもんでもあるの?」
「……ああ。そっか、そ~いうことぉ」
誠が、ポンッと手を打った。
「葉児。いじらし~じゃん。がんばれよ~」
「……うるさい……」
「で? 和泉とは仲直りできたの?」
誠に耳打ちされた。
「……ああ。ん~」
「うわっ!? なにその生返事! 仲直りできてないでしょ! ぜったいっ!!」
「いや、ちゃんとライン来てるから。無視はされてねぇから」
「なんだ~。よかったじゃん。電話は?」
つくえにほおづえをついて、だまり込んだ。
「うわ~」と眉をひそめる誠。
「……いそがしいからな。お互い……」
「誠、なんの話?」
「あんね~。オレ、こないだ、葉児に泣きつかれちゃってさ~」
「誠! 話すなよっ!!」
ガバッと顔をあげると、誠は口を横に開いてケラケラと笑っていた。
こいつの笑顔は、人の心を明るくする。
「でも、そっか。中条にも、いざとなったら本音を話せる相手がいるわけか。よかった、よかった」
目を細める小池。
気まずくなって、ブレザーのポケットからスマホを取り出すと、待ち受けにラインのメッセージが表示されていた。
「あ」
はね起きて、画面をのぞきこむ。
「見ろよ、ほらっ! ちゃんと、ライン来てんぞ! 次の大会、見に来れるってさ!」
オレは誠の鼻先に、スマホの画面をつきつけた。
「土曜の試合、見に行くよ」って綾のメッセージと、ウサギがピースしているスタンプ。
「葉児。必死すぎ」
「オレにも紹介しろよな。キッズモデルのカノジョ」
橋本に肩を組まれて、オレは「だれが!」と笑った。
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