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目を開けると、部屋はうす暗くなっていた。
オレのベッドのサイドに、人影がしゃがみ込んで、こっちをのぞきこんでいる。
肩に流れる長い髪のてっぺんで、アホ毛がくるんとそり返っている。
オレは右手をのばして、相手のほおにかかっている横髪をなでた。
大きな瞳が、ぶわっとうるむ。
小さな手のひらが、両手でぎゅっとオレの右手をはさんでくる。
「ヨウちゃん、ごめんね……。早く会いに来れなくて……」
「……バカ。どうせ、こっちは試合出れなかったんだよ。けっきょく、試合も負けたし。おまえは来なくて正解……」
「でも……行きたかったのに……」
綾は両手でつかんだオレの右手に、自分のほっぺたをすりつけた。
「あたしね……いつもいつも、ヨウちゃんに会うために仕事してるの。飛行機に乗るでしょ。東京行くでしょ。だけど、これが終われば、花田に帰れるって。ヨウちゃんに会えるって思って、がんばるの。
なのに……帰ってきても、その日はもう遅くなっちゃってて。ヨウちゃんに会えるチャンスはなくなってて。それで、会えないまんま、またすぐに、次の仕事が来ちゃって……。
だけど、帰ればヨウちゃんに会えるから、ヨウちゃんに会えるからって、いっつも自分に言いきかせるの……。いっつも、いっつも……」
オレの右手が、綾の涙でぬれていく。
「こんなの……もうヤだよ……ヨウちゃん~……」
胸が震えた。
左腕もふとんから出して、オレは綾の背中に手をのばした。
まるで獲物を捕らえる貝だ。
綾を自分の胸の中に引き込む。
「よ……ヨウちゃん……?」
綾の心臓の音が、自分の胸でひびいている。
「い、行かなければいいだろっ!?」
熱にうなされるように、オレはうめいた。
「もう、どこにも、行くなっ! オレに会いたいなら、ずっとここにいろよっ!!」
閉じ込めたい。ここから出したくない。
「綾ぁっ!!」
熱湯のような涙が、のどにからみつく。
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