37人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
「……え?」
鼻をすすりながら、綾はぼんやり箱を見つめている。
のろのろと、てっぺんにむすばれた赤いリボンをほどきだす。
街灯に、銀色の指輪が照らされた。ダイヤモンドの小さな粒が光っている。
「……ウソ……。これ……本物……」
「……本物だよ。言っとくけど、意味、重いぞ」
綾が目を見開く。問いかけるように、オレの顔を見あげる。
オレは、腹に力を込めて、その瞳を見おろした。
「給料の三ヶ月分……には、だいぶ届かないけど。しょせん、ガキのせいいっぱいでしかないけど……。けど……それでも……。綾、この先もずっと、オレといっしょにいてくれますか?」
声がみっともなく震える。
「う……うんっ!」
綾の目から、涙がぽろっとこぼれた。
「あたし、ずっと、ヨウちゃんといっしょにいるっ!!」
細い左手が、オレの前にのびてくる。
その薬指に、指輪をはめていく。かじかんだ指が、震える。
「……やっぱり、ゆるいな」
「いいの。おとなになったら、ちょうどよくなるから!」
目にいっぱい涙をためて、綾は「ふふ」と笑った。
「ね、ヨウちゃん! あたし、ヨウちゃんの売約済みっ!!」
雪は、ふわふわと夜空に舞って。
街灯の明かりに照らされて、オレは綾を抱きしめた。
最初のコメントを投稿しよう!