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「……そう。わかったわ」  書斎でかあさんに告げると、かあさんはほおにエクボをつくってほほえんだ。 「いいわ。がんばって、受験してみなさい」 「かあさん。けど……その、寮代とか、食費とか光熱費とか。いろいろ負担をかけることになるけど……」 「そんなの、あんたは気にしない! たった一度の人生なのよっ!! 自分の生きたいように生きなさいっ!!」 「ありがとう。かあさん……」  ゆりイスに座るかあさんの前に立って、オレは深く頭をさげた。  この親に生まれてよかった。  この書斎があってよかった。  ジーンズの後ろポケットで、スマホが鳴った。  とりだすと、メッセージがとどいていた。 「綾ちゃんから? 東京の撮影から帰って来たって?」 「……ああ。もうすぐ電車がつく。迎えに行ってくる!」  イスの背に投げかけていたコートをはおって、書斎のドアを開ける。 「いってらっしゃい」  かあさんの明るい声を背に、大またで、走り出す。
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