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模擬店やら体験コーナーやら細かく仕分けられたファイルのなかに講演会と記されたものを見つけ、抜きだしていく。 (さかのぼ)ること五年までたどりついたとき。 「わかったか」 いきなり間近で声がして―― 「うわっ」 と、たった探すだけのことによほど集中していたのだろう、颯天は文字どおり、わずかではあったが飛びあがった。 抱えていたファイルを落としそうになり、そうすまいと慌てたすえ棚に肩がぶつかってよろける。 直後、祐仁が手を伸ばして颯天の左腕をつかんだ。 とっさだったからか、腕を引かれた(はず)みで、祐仁の胸に抱き寄せられる恰好になった。 祐仁の左手が颯天の腰を支えて、跳ね返されるのを防ぐ。 抱えたファイルがふたりの上半身を隔てたものの、下腹部を軸にして躰が密着した。 ぐっとさらに引き寄せられたと思ったのは気のせいか、まもなく腰もとから離れた祐仁の左手は颯天の右腕をつかんだ。
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