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ガッシャーン
ちゃぶ台をひっくり返したような音の後、男の罵声が響きわたる。
「ふざけんなこの脳なしブタ野郎」
すると、その脳なしブタ野郎が言い返す。
「おめえこそいったい何様だと思ってやがるんだ」
男達の言い争いにまわりが凍りつく。
この何様だと言われた男は、里中裕二48歳、和食一筋30年の料理人である。少々強面ではあるが、頼りになる兄貴分として慕われている人物だ。
一方、脳なしブタ野郎こと荒木章造55歳、割烹荒木のオーナーである。その見た目は上述の通り、貫禄のある大将といったところだ。
里中が続ける。
「今日出す料理をすべて取り替えろだと、そんなわがままな客の言うことなんか聞けるか」
「大事な客なんだ。それぐらいのこともわからねえのか」
「そういことを言ってんじゃないよ。今回だけじゃなく、今まで俺があんたのやり方にどれだけ我慢してきたことか」
「俺のやり方がそんなに気に入らねえのか」
「ああ我慢ならねえ。こんな糞みたいな店、今すぐ辞めてやらあ」
「じゃあ勝手にしろ」
そう言い放って荒木は奥の座敷の方に戻っていった。
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