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満月の夜
本当なら今日の空には、地上を照らす明るい満月が輝く日となるはずであったのに、厚く覆うこの雲によってその姿を見ることは出来ないだろう。
逆に、この雲の上から見る真夜中の地上は完全な闇に覆われておらず、一定の間隔に置かれた街路灯と、まばらに置かれた自販機、それに住宅から漏れる光が、この夜空に輝く星々かのように輝き、それこそ「地上の星」と呼ぶのにふさわしいではないだろうか。
その地上の星を眺めながら、一人で夜風に吹かれていた。闇よりも黒い羽が風に飛ばされ、舞い散りながら、地上へと落ちていくのも気にしないで。
「こんなところにいたのか」
「先輩……はい。少し夜風を浴びていました」
振り向きながら、私は答えた。今日は、この満月の日は……私が初めて地上へと向かう日、この姿になって初めての仕事だった。
「そろそろ時間だ。行くぞ」
「はい、よろしくお願いします」
満月の光に照らされて蒼く光る雲を飛び降り、背中から生える黒羽の翼を広げ、地上の星の……今もなお輝いている、一つの星へと、向かっていく。
冷たいコンクリートジャンルの中、規則正しく並ぶ集合住宅の一つ、まばらに光る窓を目指して飛んでいく。
「先輩……」
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