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「魔法……使い?」
「うん。この本に出てくるんだ」
「それは……?」
小さな手に握られた、ボロボロの絵本。何度も何度も繰り返し読み込まれたのだろう。色も形も、それを本であると認識させないものだった。
「『灰かぶり』だな」
今まで沈黙を守っていた先輩が口を開いた。
「灰かぶり……ですか?」
聞き覚えの無い言葉に、私は聞いた。
「欧州発祥の童話の一つだ。虐められていた主人公の灰かぶりが魔女の魔法で王子の舞踏会に行くという……」
聞いたことのある話、それは……確か……
「シンデレラの事ですね」
「夢物語の一つだな。現実的じゃない」
「そういう事、言っちゃ駄目ですよ」
先輩の話、この子には聞こえて無いと良いけど。
「ごめんね。私たちは……魔法は使えないの」
それでも、騙して良いことは無い。辛い現実から背けていけないように、夢ばかり見てもいけないのだから。
「そうなの……」
悲しませてしまったかな……でも。騙してしまうことは、私には出来ない。どんなに苦しい思いをしても、嘘偽りを語りたくは無かった。
「確かに、俺達は魔法は使えない。だが、お前を魔法使いの下へと連れていくことはできる」
沈黙を破ったのは、先輩だった。
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