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「気付いているだろ、この背中の翼を。俺達は偉大なる魔法使いの師から使わされた者。師からお前を連れてくるようにとの命を受けたのだよ」
「ちょっと……先輩……」
突然の出来事に困惑した。先輩の言葉は全くのでたらめ。すべてが嘘で固められていたのだから。
それは違う。そう告げようとする私を制止ながら、先輩は続けた。ここに私の居場所は無くなり、すでに二人の世界になったかのような感覚で、時間だけが動いていた。
手すりによりかかり、折り畳まれた黒羽を下に伸ばしながら、シンデレラの物語を思い出す。
母を亡くし、父を亡くし、新しい家族からは虐めを受けてきたシンデレラ、彼女はやがて魔女と出会い、そして王子さまと結ばれる……。
この子はきっと、同じなのかもしれない。自分をシンデレラと重ねて今まで過ごしてきたのかもしれない。だから私たちをみて、魔法使いと言ってきたのかも、自分を助けてくれる存在を求めていたんだ。
だけど、どうする。私は本当にそんな存在ではない。シンデレラの物語に出てくる魔法使いではなく。むしろ、継母や義姉のような──虐めこそはしないけど──もの。この先にこの子にかかる、苦難や絶望を知りながら、それを与えるのなら、私はこの子にとって望まれないものなのだから。
「さあ、行こう。この空の向こうの楽園へ」
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