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その──普段の姿からは想像できない──先輩の声を聞き、私はこの世界に戻ってきた。……楽園?
「先輩、『楽園』って何ですか」
その問いかけは、先輩の耳まで届かず、闇に消えて先輩は何事も無かったかのように飛び出してしまった。
残されたのは、事情の分からない私と今日迎えに来たこの子だけ。何を聞いたのか楽しそうにはしゃぐ子を前にし、私は光の無い闇夜をひたすら見つめていた。
「ねえ、お姉ちゃんもお空を飛べるんでしょ! 早く行こうよ!」
「え……ええ、行きましょう」
考えても仕方ない。それなら……仕事を進めよう。
「それじゃあね。しっかりと掴まっててね、落ちないように」
「うん! わかった!」
小さい瞳を星のように輝かせて私を見つめる子。この子を連れていく、その場所の事を考えると、少しだけ心が痛くなってくる。
それでも、やるしか無い。必ず、この子のためにも必要な事なのだから。
だらしなく地を向いていた羽を大きく伸ばし、小さな体を両手でしっかりと支え、目指す先はこの高い空の……更に上。
「うわぁ! きもちいい!」
冷たい夜風を切り分けながら、どんどんと高く飛び、先程までいたあのベランダはあっという間に豆粒程の大きさになっている。
「雲がなければ、もっと星がみえたよね」
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