0人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫よ。ここを抜ければ、もっと綺麗な空が見えるから」
抱えながら飛ぶ、何も考えずに。
光を遮る黒い雲を突き抜けながら、私は飛び続ける。夜の冷たい風よりも更に冷たい雲の中は、伸ばした手の先が見えなくなるほどの霧で、私の心の中をそのまま写している……そんな気がした。
「つめたいね! お姉ちゃん!」
「そうね。でも、すぐに抜けるから、もう少しだけ我慢してて」
「うん! 大丈夫だよ!」
元気のいい、明るい声を聞いて、また暗い気持ちになってしまう。私は……私のしている事は正しいのだろうか、と。
羽に溜まる水滴が落ち始める頃、霧の先に光の粒が見え始めて、かと思えばこの厚い雲を抜けていた。
「ねえ! お姉ちゃん。きれいなお月様だよ!」
「そうね。今日は満月なのよね」
この雲のはるか上空から見下ろす真円の月が、私たちを照らす。
「遅かったな」
「先輩が早すぎるだけです」
背中からかかる声を受けて、そのままの姿で答えた。月の光を浴びながら立ち、気持ちの良い風が吹き抜けている。
結局のところ、この子は初めから、ここに来ることは決まっていた。私を挟んで、月の正反対の位置には純黒の──この闇に溶け消える羽以上の黒さの──門扉がある。
最初のコメントを投稿しよう!