本文

3/3
前へ
/3ページ
次へ
私は__今の彼が好きだ。正直、この関係が変化するのが恐ろしい。このまま、時が止まってしまえばいいのに、そうしたら、この島でこの美しい海をたゆたっていられるのに。 「ばーか」 そう簡単に変わんねぇよ。と彼は続けた。 そう、そうなればいい。 ああ。私は結局何も捨てたくないのだ。全てが大切すぎて、この幼馴染との関係も、発展させたくはないし、かといって彼が別の人を好きになって、いなくなってしまうのも、怖くてしょうがない。 本当に、わがままだ。どうしようもない。 すっかりセンチメンタルになってしまった私を、彼はどうしたものかと見ている。こんなのおかしい。いつもと違う。変化を恐れる自分が、一番いつもと違うなんて。 「もう上がるわ」 「珍しいな。いつもはもっと潜ってるだろ?」 「うん。私、人間だから」 彼はぽかんとした。そう。私は人間だ。 「意味不明なんですけど」 私は、来年、本土に向かう。この島の宝物を抱えたままで。ひとかけらも逃さない。捧げない。欲しがらない。そう決めた。 「人魚姫にはなりたくないってことよ」 海からざあっと風が吹いてくる。私は目を(すが)めて、その涼に背を押され、陸に上がった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加