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私は__今の彼が好きだ。正直、この関係が変化するのが恐ろしい。このまま、時が止まってしまえばいいのに、そうしたら、この島でこの美しい海をたゆたっていられるのに。
「ばーか」
そう簡単に変わんねぇよ。と彼は続けた。
そう、そうなればいい。
ああ。私は結局何も捨てたくないのだ。全てが大切すぎて、この幼馴染との関係も、発展させたくはないし、かといって彼が別の人を好きになって、いなくなってしまうのも、怖くてしょうがない。
本当に、わがままだ。どうしようもない。
すっかりセンチメンタルになってしまった私を、彼はどうしたものかと見ている。こんなのおかしい。いつもと違う。変化を恐れる自分が、一番いつもと違うなんて。
「もう上がるわ」
「珍しいな。いつもはもっと潜ってるだろ?」
「うん。私、人間だから」
彼はぽかんとした。そう。私は人間だ。
「意味不明なんですけど」
私は、来年、本土に向かう。この島の宝物を抱えたままで。ひとかけらも逃さない。捧げない。欲しがらない。そう決めた。
「人魚姫にはなりたくないってことよ」
海からざあっと風が吹いてくる。私は目を眇めて、その涼に背を押され、陸に上がった。
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