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その昔、私たちの島には人魚が住んでいたという。
とぷん。と緩やかに水に飛び込む。海はどこまでも穏やかで、素潜りの練習にはもってこいだ。
差し込む光がカーテンのように揺れ、色が変わる。魚たちの群れがパッと向きを変え、たゆたい、また、方向を変える。
その中をひたすらに潜っていく。私は青い青い海の中に落ちて行きたかったのかもしれない。しかし、現実はそうはいかず、引き返さなければ行けなくなる。タイムリミットだ。
小さな頃から暖かい時期は大体潜っていて、体感でわかる。
遠くに、白く光る石でできた鳥居が見えてくる。水温ががぐっと下がった気がする。あれが、人魚の住む社。
私が一度も到達したことのない、目標。
浮上する。ゆっくりと時間をかけ、水に阻まれながら潜って行ったのに、加速しながらあっという間に陸地に引き戻される。
__私はどこまでも人間だ!
ザブンと首を出すと、どこまでも抜けるような蒼が広がる。まるで、空と海の狭間に浮いているような気がした。その中で正面から、呆れたような視線とかちあう。
「お前、また潜ってたの?」
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