一章

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一章

エッセンでは夏の雨はじっとり重い。ほかの地域より湿度が高いのだ。熱気と湿気が交じり合って、むせそうになる。俺たちのような士官候補生一年次の新入りは、みんな夏の雨が嫌いだ。武器を厳重に保管するため庫内は気密性が高く、蒸し風呂状態だ。運が悪ければ点検中に倒れることもある。さらに運が悪いと、倒れたまま放置され、士官になることができなくなってしまう。 「ジュリアス・ウッドヴァイン」 射撃訓練後、同じ隊の候補生に声をかけられた。名前はマイルズ・スコット。彼の家は軍内で幅を利かせているらしい。それ以上の詳しいことは知らないが、自分以外のやつはたいていいい出自だ。 「何?」 「今日の武器庫点検代われよ」 マイルズは二人の取り巻きを従え、かなり強い語調で言い放つ。不遜な態度が鼻につくが、ここでは敷居の高さがものを言う。反抗的な態度は、時に命を危険にさらす。 「なに? 年上だからって逆らおうってのか?」 取り巻きの一人が言う。 「わかったよ。ごちゃごちゃ言わないでくれ」 「じゃ、よろしく」 マイルズは管理表を投げ渡すと、学舎の方へ消えていった。     
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