一章

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俺は舌打ちを一つ残し、訓練場を出て武器庫に向かった。雨が静かに髪を濡らす。管理表を濡らさないように、上着の中に入れ抱えるようにして運ぶ。灰色によどんだ世界を進みながら歯噛みする。どうしてこんなことをしているのだと、己に向かって問う。いつの頃からか、ふとした瞬間、時間に空白ができると自問するようになっていた。俺はいったい何をするためにいるのだと。 土地や資産を継承する権利のない貴族の子供は、おそらく、みんな俺のような扱いを受ける。一門の名声をさらに高めるため、軍人か学者にさせられる。いまは軍人として名を上げるため、士官学校に入れられているが、最初は学者を目指すため学院に入れられていた。隣国との関係に摩擦が生じることを見据えた結果、学者より軍人になった方がより大きな名声を勝ち取るだろう、そう考えたためだ。無論、考えたのは俺ではない。両親だ。机に縛り付けられ、名門校入学のため受験勉強に励む日々を送った。入学後、俺は一年だけ学院に籍を置き、その後士官学校に入学させられた。そのため、他の候補生より二歳年上なのだ。年下で強い家柄の言いなりにならなければならない。年功序列を振りかざす気はないが、年上であるにもかかわらず顎で使われることは、耐えがたい部分もある。 知らないうちに敷かれていたレール。親の好みの外装の汽車になって、俺は走っていかなければならない。惰性で走るむなしい道のりだ。終着点など知らない。 俺はどこへ行くのだろうか。
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