第十六章 悪夢と街の境目

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 そして、寒河江も図師と同じく、やりかけのソフトを残したまま死ねないと言っていた。寒河江のソフトは、暗示をかける仕組みを追加されて、全世界に配布されている。それを、寒河江は回収したいという。 『……事件、止められなかったのか』  桜本の声が、ため息交じりに聞こえていた。死保からは、寒河江の決意により、帰還命令が出たようだ。 『……六六七、五六三……刺激は続けると麻痺する。緩急を忘れずに。それに尻ばかり責めないで、休ませて!』  瀬谷は点数が下がり、がっかりしながらも、懸命に続けていた。桜本のこれは、帰還命令が赤の点滅になるまで続くのかもしれない。 『……即席カップルのほうは、時間が経過すれば、暗示が溶けてゆきます。祭りのせいで、やってしまったと、そう深くは残らないでしょう』  これは、瀬谷の計算で、その計算には誤りがある。 「尻を始めて経験した方は、記憶にはしっかりと残りますよ。やったことが、ある、無いは大きな違いです」  入れた方は、そう記憶に残らないが、尻を経験したほうは忘れられないだろう。痛みはやがて薄れて、思い出せなくなっても、ここでしてしまったということは、初めての記憶に残される。 『……そうなの?計算に組み込んでおくよ』
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