伝承

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気が遠くなるほど遠い昔、エルフという種族がいた。 彼らは人間と似たような姿をしていた。 見た目で違うことといえば長く尖った耳と、例外なく容姿端麗という事。 エルフは気に入った街や人間に加護を与え、繁栄をもたらすと言われる。 繁栄といっても必ずしも富とは限らず、加護を与えられる者が最も必要とするものを与えた。 だが金に目が眩んだ邪な輩は、エルフを金の成る木と勘違いした。 エルフ狩りをしては無理やり加護を自分のものにしようとし、言う事を聞かなければ奴隷市場に売り飛ばした。 容姿端麗のエルフは男女問わず人気で、初めから売るのが目的でエルフを捕まえる輩も出てきた。 そして宵闇の中、エルフの娘が足をもつれさせながら走っていた。 後ろから怒声がかすかに聞こえて振り返ると、遠くで松明の灯りがいくつも揺れていた。 「急がなきゃ……!」 エルフの娘は無我夢中で走った。 実はこの娘、1度賊に捕まってしまった。 なんとか隙を見て逃げ出したが、どうやら気づかれたらしい。 今のところ松明は遥か向こうにあるとはいえ、追いつかれるのも時間の問題だ。 何度も転び、擦り傷をつくりながら走っていると、小さな灯りが点々と見えてきた。 (人間の村……?どうか、お願い!) エルフの娘は村人達が助けてくれる方に賭け、村を目指した。 村に入ると、1番手前にある家のドアを叩いた。 「はぁ……はぁ、お、お願い……、助けて!」 「こんな夜中にいったいどこの誰が……ん?アンタは……」 体格のいい男が文句を言いながらドアを開け、エルフの娘を見て絶句した。 「今悪い人達に追いかけられていて……。一晩だけでも、匿ってくれませんか?」 エルフの娘は、祈るように男を見つめた。
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