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いつかの交渉時、ヒトモドキによる犠牲者の話が上がった。別室で買い出しの話をしていたが、古い発電所には窓が無く、話は筒抜けだった。
祖母の名を聞いた。懐かしい響きと胸に突き刺さる痛み。あぁ、やはり。私は獣なのだ。肉を喰らってのうのうと生きる獣なのだ。
空が白み始めた頃、蹄の音が響いた。鹿かと思ったが、鹿にしてはうるさい。徐々に近づいてくる音で集落の者だと気付く。一閃の風が吹く。吹いた方向に、馬のヒトモドキが居た。限りなく馬に近いヒトモドキで、神話のケンタウロスは現代に実在するのだと驚いたのも過去の話だ。いつもならこの時間に村を通り過ぎるはずだが、彼が迎えに来たあたり何か事情がありそうだ。
「どうしたの。」
「この先の村が燃えたらしい。
…乗って。迂回するから。」
たくましい両腕でひょいと投げるように馬の背に乗せられ、人の腰に抱きつく。トランクも空のダンボールのように軽々と持ってしまいどうせならバス停から迎えに来て欲しかったなとも思う。
「軽いな。」
一言呟くと、猛スピードで蹄を響かせ走り始めた。
廃発電所はせわしない空気で満ちていた。いつも交渉の後は今日も負けたと怒りで満ちた空気だが、今日は少し違っている。
「ねぇ、何があったの。」
こそこそと馬のヒトモドキに耳打ちをする。ハァ、と一息つき話し始めた。
「お前が都会に行ってる間に、いつも交渉しにくる村のヒトらが大人数で来て。今日は預けたいものがあるって言ってきたんだ。なんだと思って聞いたら、ヒト。しかも全員年食ってて、認知症っていうの?ボケた感じで。村の若いヒトが大半都会に行ってしまって、老人が老人の介護するような状況だから人手が欲しくって俺らを頼りたいんだって。俺ら、動物混ざりだから体力あるし。
じゃあどんな支援が欲しいのって言ったら、今日認知症の疑いが有るヒト全員連れてきたから今日からこの集落で面倒みてくれっていうんだよ。交渉してる間あっち行ったりこっち行ったりする、そんなヒトをな。さすがに農作業中の奴ら呼んでそのヒトとあのヒト抑えててくれって頼んだ。もしかしたらまだどこかにいるかもな。…冗談だよ。全員ボートで帰って行ったよ。
まぁなんにしてもここは発電所跡地で、介護なんてもってのほかだってことお帰り頂いた。でもまさか、燃やされるとは。誰がやったんだろうな。俺たちの誰かじゃないことを祈るな。」
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