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トランクを受け取って馬の背から降り、自室に戻る。ずっと揺さぶられて走ってきたから足にガクガクした感覚が残る。
育った村が燃やされた。だから何だと言う。私はあの村にいても、ずっと家の中にいた。むしろ、あの村への印象はこの集落に来てからの方が強い。
傲慢で、欲深く、私を、私たちを見下して当然と思う奴ら。
私は彼らが許せないと思うところがあった。もし、私が普通の子供だったらと思うこともあった。そうすれば平和に祖母と生きられて、祖母の最期も看取れただろう。私は祖母と生きたかった。生きて恩返しをしたかった。一緒にいてくれてありがとう。育ててくれてありがとう。きっとそんな思いは一緒に生きていくに連れてたくさん出てきただろう。私は、祖母と違う生き物であってもその言葉がたくさん生まれる道に居たかったのだ。
ほぼ徹夜だったので眠ろうと簡素に作られたベッドに寝転がると、カーともスーともつかない何かの呼吸のような音がベッドの下から聞こえる。また狸か何かが入り込んだかとベッドの下を覗き込む。
目を見張った。ベッドの下の日が届かない小さな暗がり。いつかの血の味をふっと思い出す。息を吐くようにつぶやく。
「おばぁ、ちゃん。」
そこには、祖母がいた。死んだと思っていたはずの祖母。くしゃくしゃで空いたかどうか分からない小さな目で私を見つめる。
「なんで。」
生きてるの。私のベッドの下にいるの。と、言いたかった。あの時の話し合いが急に頭に浮かんだ。そうだ、あの時は犠牲者と言っただけで死者とは言ってないではないか。生きて、認知症なりになっていてもおかしくはない。
「お薬買いに来たの、痛み止め。」
「…誰に。」
「孫よ。かわいそうに、あの子ずっと痛い痛いって泣いてるの。」
「…そう。」
「あなた、孫にそっくり。もう少し大きくなったらあなたみたいなお嬢さんになるかもねえ。」
くしゃくしゃした笑み。間違いなくおばあちゃんだ。目の前の私がわからなくなっていて、現実がわからなくなってしまっていても、私を忘れていない。
ベッドの下から何とか連れ出し噛み付いた傷を見た。かつて私が付けた傷はぷっくりと膨れてケロイドになっていた。私はこの傷にどれだけ悩んだだろう。おばあちゃんはこの傷がどれだけ辛かっただろう。
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