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くすんだ色の服を着た女の子が物珍しそうに俺を見ている。
「あたしはメイ。あなたは?」
駆け寄ってそう聞いてきた。言われて気付いたが、俺には名前がない。
「って、猫は喋らないよね」
そう自分で突っ込んだあと、へへっと笑って俺を抱き上げた。
また何かに捕まってしまった。女の子――メイは「家においでよ。お腹空いてるでしょ?」と撫でる。
多分、あの女よりずっとマシな存在だろう。
メイの家は路地裏にある段ボールとボロ切れで出来たものだった。中には懐中電灯が一つ、光りながら転がっている。
「ただいま」
メイの言葉に応えるように奥から「おーあー」という声が聞こえてきた。
「ジュン、見て。猫だよ」
メイは嬉しそうに俺を声の主に見える。そいつは俺の髭を引っ張って「ね? ねー!」とはしゃいだ。
メイは「ダメだよ。ジュン」と俺を守るように抱えて引き離す。
メイがジュンと呼ぶ存在はメイよりずっと年を取った少年だった。
メイは俺に水を与えながら、自分が置かれている境遇について話した。
最初は両親と四人で暮らしていたのだが、いつの間にか両親が居なくなってしまったこと。
落ち葉や木の実でアクセサリーを作って、陽の当たる場所から来る旅行者に売っていること。それがなかなか売れないこと。
叔父から良い仕事があると紹介されているが、兄を一人にしたくないこと。
メイの話に耳を傾けながら、俺は愚痴を聞いてくれる相手が欲しかったんだろうな、とぼんやり考えていた。
メイが愚痴る中、一人の男が訪ねてくる。
「叔父さん!」
「メイ、あの話は考えてくれたかい? 引き受けてくれたら大金が入るんだ」
その男の声に聞き覚えがあった。確か、あのしんとした中から聞こえてきた、心臓がどうのこうの言っていた声だ。
「早くしないと、荷車付き自転車がなくなっちゃう! 荷車と自転車のセットなんだ」
「叔父さん、でも、ジュンが……」
「ジュン? ああ、心配しなくていい。叔父さんが何とかするよ」
「だけど……」
「大丈夫大丈夫。心臓を取ったらすぐに帰れるから!」
――間違いない。そう確信したとき、俺は男の手を思いっきり噛み付いた。
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