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男は悲鳴を上げながら、俺を床に叩きつけた。
「な、何なんだ!? この生き物は」
そのまま、怒りのまま俺を踏みつけようとしたが、メイが俺の身代わりになって頭から血が流れる。
「逃げて!」
考えるよりも先に、メイの言葉に従ってその場から全力で走り出す。
兎に角、今は逃げる以外のことを考えられなかった。
「見つけた」
走り疲れてとぼとぼと歩いていると、あの女と再会してしまった。
「酷い目にあったんだね」
女は赤い棒キャンディーを持ちながら笑う。
「この集落はね、勉強とか教育とかそういうものの存在すらないんだよ」
俺の頭を撫でる。なんだか痛みが引いていくような気がした。
「だから、自分たちの身体や社会の仕組みがわからないし、本能のままに生きるから子供を作って産み落とすの」
何がおかしいのかずっと笑っていて、その笑顔は酷く空虚に見えた。
「運よくマシな人間の養子になってちゃんと人間になれることもあるけど、大抵は悪人に必要な部分だけ取られて棄てられるだけ」
ある程度、撫でたあと、また俺の首根っこを掴む。
「だから、今すぐにでも、別の世界に」
「にゃっ! にゃー! にゃー!!」
俺は全身で暴れた。
この女はとてつもなく勝手だ。気ままに連れ回して、一方的に話を進めて、こっちの話を全然聞いていない。聞こうともしない。
俺はまだこの世界でやらなきゃいけないことがあるのに!
「いい加減にしろよ! てめえ!!」
猫の言葉で罵詈雑言を吐いていたら、唐突に人間の言葉が聞こえてきた。
「な、ん、だ、こ、れ」
言うまでもなく犯人はこの女だろう。
「――これで、何か変えてみせて。きっと何も変わらないだろうけど」
そう小馬鹿にしながら、俺を手放す。
迷わず、俺はメイの元へ向かった。
ずっと真夜中でどれくらいの時間が経ったかはわからない。
なるべく早く会いたい。手遅れになる前に。
「メイ!」
メイを見つけて、俺は名前を呼ぶ。メイは心底驚いた顔をしていた。
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