ビールの行方

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ビールの行方

 私は目の前に無造作に置かれた七本の缶ビールを見て途方に暮れていた。  数日前、私は友人たちとバーベキューを行ったが、こうしたイベントの幹事に慣れていない私は食材や飲み物をどれだけ揃えれば良いのか分からず頭を悩ませることになった。  結果としてバーベキューは特にトラブルもなく無事に終わり、私は余った食材や飲料を家に持ち帰ったが、ビールがこんなにも余ってしまったのは予想外だった。  こうなることを見越してビールは少なめにしておいたのだが、それでもビールに手を付ける人は誰もいなかったのはとんだ誤算だった。  そもそも私はビールが苦手だ。  飲み会などの席で談笑しながら飲む分には平気だが、一人で飲もうとするとビール特有の苦みが受け付けられず、びっくりするぐらい飲めない。  たまに気まぐれで一人で飲みたくなることがあり、いくらでも飲んでやるぞというやる気概でビールを買っても、いざ缶を開けるとやはりその苦さに耐えられず、折角買った缶の半分も飲みきれないこともままあった。  そんなビールが苦手な私の前にビールがこんなに置かれているという事態は忌々しき問題だった。  適当なつまみと一緒に一缶開けて無理矢理胃の中に流し込んでみたが、やはり美味しいとは言い難く、こんな不毛なことをあと六回繰り返すのは流石に馬鹿らしい。  なにか有効活用する手段はないものかと思い至った私は、料理酒のようにビールを使って料理を作れないものかと考えた。  調べてみると、ビールを使った料理は意外と多いようで、いずれもビールの苦みが作用して大人の味になるということが書かれていた。  そういえば子供の頃、ビール入りのチョコレートというものを食べたことがあるが、確かにあれは大人の味だった。  これは案外期待できるのではないかと思った私は、早速材料を揃えてビール入りのカレーを作ることにした。
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