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用意した材料は人参、玉葱、ジャガイモ、肉の代わりにバーベキューで余ったエリンギだ。
今はそうでもないが私は学生時代、カレーに入っている肉がどうしても苦手で、家では肉無しのカレーをよく作ってもらっていた。
あんたが肉を食べないからカレーを作るのが楽だと母は言っていたが、今回はそんな母に敬意を込めて肉の代わりにエリンギを使うことにした。
具材を食べやすい適当なサイズに切りそろえ、レンジで加熱して柔らかくした後、油を引いた鍋に投入する。
玉葱は飴色になるまで炒めるとコクが増すのでしっかり火を通して炒める。
野菜の焼けるいい匂いに私の気分も高揚してくる。
そして頃合いを見て投入するビールを用意する。
レシピにはいつも使う水と同じくらいの分量のビールを使うということだったので、とりあえず一缶無造作にビールを鍋の中に投入する。
鍋の半分近くがビールで満たされ、炒められた食材たちがビールに浸される。
透明な水と違って黄金色のビールに浸されている様子は気持ちよさそうに風呂に入っているように見えなくもない。
しかしここで私は、食材が七割程度しかビールに浸かっていないことに気付き、これでは煮込み足りないのではないのかという不安に駆られた。
そして、どうせ余らせても仕方ないし……と、もう一本ビールを開けて鍋に投入した。
鍋の八割がビールで満たされ、食材も完全にビールに浸り、私の心は謎の達成感で満たされた。
数分経ち、食材もそろそろ煮えてきたので、カレールーの半分を入れる。
ルーはあっという間に溶けて、黄金色だった鍋の中を茶色く染めていく。
ルーが溶け切ったのを確認した私は、期待を胸に味見をしてみた。
苦い。ただ苦い。それが私の感想だった。
ビールも煮込めばアルコールが飛んで苦くなくなるだろうと作る前は楽観的なことを考えていた私だが、確かにアルコールは抜けているようだが、ビール特有の苦みはしっかり健在で、調子に乗って二本もビールを加えてしまったせいで普通のビールよりも苦くさえ感じる。
いや待て、まだルーの半分しか入れていないんだ。全部入れればこの苦みも気にならなくなるはずだ。
そんなある種の希望的な観測を胸に、私はルーの残り半分を投入し、カレーを仕上げたのだった。
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