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昼間、暑さに耐えきれず静まり返っていた虫の音が、幾分涼しくなった真夜中に響く。
夏の風物詩である虫の合唱は美しく虚空へと奏でられ、無数の星々はそれに応えるように輝いた。
田舎の町を華々しく飾る、唯一の魅力かも。
「アツっ……」
外へ出てジェーンが初めに口にしたのは、湿気を帯びた空気への嫌悪だった。
ぼくはそんな彼女の横顔に、妙な清涼感を覚える。
「ねぇ、ジョン」
「ん?」
「このままじゃ間に合いそうにないから、近道しましょう」
目の前に立地する公園の時計塔に目をやる。短針は12の文字寄りに、長針は45の上を通過するところだった。
「あぁ。そうした方がよさそうかも」
ぼくは彼女の言う通り、街灯の並ぶ大通りを通るには時間が足りないと悟った。
「起きるの遅いからこうなったんだけどね。誰とは……言わないけど」
そんな彼女の意地悪な笑みにぼくは適当な愛想笑いで返す。そしてぼくたちふたりは、細い裏道へと進んでいった。
裏道を使ってでも約束の時間に間に合うかどうか自信がなく、少し早歩きで道を進む。街灯の明かりどころか、月光の道標もない。だがぼくたちの足捌きに迷いはなかった。さながら、瞳を真ん丸とさせたネコが軽快なステップを踏んでいるかのように先を急ぐ。
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