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一夜
目を瞑れば、瞼の裏に暗闇が映る。
いつだって、どこにいたって、こうして目を瞑るだけでぼくは暗闇の中に立てる。
暗闇の中は、何もない。肌を優しく撫でる風もない。大地を覆う草もない。命を育む水もなければ、その水が流れる静清な川もない。ぼくと暗闇……それ以外には何もない。
でも少しだけ思い描けば、ぼくは何かを創りだすことができる。
ぼくが欲しいと願えば、そこにあってほしいと願えば、暗闇の中でもそれは存在できる。それがステーキやお寿司のような高級料理であっても、欲しいテレビゲームでも、決して手に入ることのないあの子の笑顔だって……。どんなものでも暗闇の中では創りだせる。ぼくが少し、考えるだけでいい。それだけでいいんだ。
「ねぇ、ジョン」
だからぼくは、暗闇が好きだ。そんな暗闇が、好きでたまらない。
自分の思い通りになる暗闇の中が、ぼくには天国だ。……生きる現実でもある。
「ジョン」
……あれ?
「ねぇ」
どこからか声が聞こえる。
「……ジョン」
聞いたことのある声が、朧げにぼくの名を呼ぶ。
「ジョンってば!」
「……ん……んん」
遠くから聞こえる声に引っ張られるようにして、ぼくは目を開けた。
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