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「りほって、夜更かししたことはあるの?」
「大みそかぐらいかな」
「私、一回もじゃしたことなくてね、今日、夜更かししてみない?」
「いいけど、何時までするの?」
「朝になるまでやってみない?」
「…楽しそうだね」
「ん?なんか、ノリ気じゃないの?」
「そんなことないよ」
「そっか。じゃまずは、夜更かしの成功ジョーケンを決めようよ」
「とりあえず、日が昇るまで一度も寝ない」
「いいねそれ。つぎは、ん〜何にしよう?」
「私のママとパパにバレない」
「いいね、それ」
「でも、部屋に入ってきたらおしまいだから、どうしよう」
「そうだ!バリケード作ろうよ」壁に固定されてない私の勉強机を、ドアの前に動かした。
「そう言えばこずえちゃん、十六巻、読みかけだったよね」
「そうだった!じゃあ、読んでもいいですか」
「いいよ」再度、ベッドにダイブした。半分も読み終わらないうちに寝落ちする、そう考えていたりほだが、「読み終わった!」とこずえちゃんが軽く叫んだので、予想は外れた。
「そういえば、親からは許可とったの?泊まりに行くこと」りほは尋ねた。
「パパには聞いてないけど、キョカはもらったよ。何か心配でもしてるの?」
「こずえちゃんの親って、すっごく厳しいって噂流れてたから、家出っぽく泊まってたら少し心配だからね」
「じゃあ、りほのパパとママはダイジョウブなの?」
「大丈夫。むしろ喜んでたぐらいだよ」今日こずえちゃんが泊まりに行く、そのことをりほがママに言うと、彼女の弟にカノジョができたときぐらいの喜びようだった。もちろん凄まじい。
「喜びすぎて、晩ご飯のメニューが変わっていたよ」カレーからすき焼きに。
「え!そうなの?」
「カレーの匂いしてなかった?」
「してなかった…そういえば、してたかも」
「ホントに?」
「…嘘かも」
「嘘つきにお仕置きはしないけど、どうだった?今日の晩ご飯。あれ、ママの得意料理なんだけど」
「おいしかった!外で食べてるような味したよ!」
「よかったね」
「明日、作りかた教えてもらお!」
「え!こずえちゃん料理できるの?」
「時々作るよ」
「じゃあ、今度遊びに行ったときに作ってね」
「わかったよ」
「いやあ、楽しみだな、こずえちゃんの手料理。楽しみすぎて、眠れないよ」
「たしかに、りほあんまり眠そうじゃないね」
「大みそかだって、家族で一番起きていたからね」
「へぇ、夜ふかし得意なの?」
「まあね」
「じゃこのまま『恋プレ』の話してようよ」
「いいよ」
そして、二人とも一睡もせずに朝を迎えた。だったらよかったのだが、流石に寝落ちしてしまった。だが、ふと轟音が聞こえた。
「え!今の音、何か分かる?」りほは飛び起きた。鍋が床に落ちた音だった。
「…こずえちゃん、起きてる?」すやすやと寝息をたてていたので、ゆすってみたが起きない。仕方なしに頬を叩いた。ペチンと、少し湿った音が響いた。
「イテテ。おはようりほ、もう朝?」
「真夜中だけど、さっき大きな音がしたの、何か分かる?」
「…ごめん、寝てて聞いてなかった」
「…まあいいか」そうりほが呟いて、夜ふかしを続けようとするが、無理だった。
「…バリケード、ちゃんと作ったよね?」こずえちゃんが尋ねると、
「…まあね」肩を並べていたりほが震えた声で応えた。
ドアノブがガチャガチャ動いている。ドアが、開けようとするのでバリケードにぶつかっている。だがしばらくして、音が止まった。そして、別のドアを開ける音がした。
「…大丈夫だよね」こずえちゃんが小さく呟いた。
「…バリケードはしっかりしてるからね」そう応えつつも、りほの視線は宙を彷徨っていた。それぐらい怖がっていたので、もちろん眠れなかった。
そんな二人を出迎えたのは、りほのママと朝カレーではなく、警察とレトルトカレーだった。
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