あなたはちがう

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二人はドリルの音で目を覚ました。ドアの方からその音がする。寝不足で思考力が低下した彼女たちは、機械的にバリケードを崩す。  見慣れたドアと異なり、ドリルが刺さっている。近代芸術と思う隙もなく、ドアを開ける。向こうには、大人。ある程度の武装をした男性が話しかける。 「もしかして、君たちはこずえさんと利保さんかい?」 「…」 「大丈夫か?」 「…あ!あ、あ、だいじょうぶ、です」先に声が出たのがこずえ。 「そうか。ならよかった」一拍置いて、 「君たちはこずえさんと利保さんかな?」 「え、ええ、そうですけど」りほが応えた。 「大丈夫?怪我はない?」 「ないです」 「じゃあ二人とも、ちょっと待っててね」そして、大人は「行方不明の二人発見です。生きてます」とピンマイクに向かって言った。そのまま、警察署に連れて行かれた。 「…どういうことですか」事実が飲み込めないらしく、利保は呆然と椅子に座っている。だが、朝食を摂ってないので、目の前のカレーは、少しずつだが飲み込める。 目の前には同じく腰掛けている人。刑事のようだ。 「…質問ってなんですか」 「ああ、昨日の真夜中のことについて、ちょっと聞きたいことがあってね、いいかい?」 「どうぞ」 「不審な音がした筈だけど、そんな音は聞こえた?それと、聞こえてたら、何時?」 「確かにしました。たぶん、一時ごろだったと思います」 「昨日、家族がどこにいたか、教えてください」 「母と父はどちらも家にいました。弟も弟の部屋です。兄は部活で遠征に行ってまして、今は岐阜だったと思います」 「ありがとう。次に、君たちがいた部屋はドアがこっちからは開けられなかったけど、何か細工はしてたの?」 「バリケードを張ってました。私の机をドアの前に置いたんです。あと鍵も」 「そんなに重いものを二人で作ったの?」 「時間と労力をかけましたから」 「たしかに、それなら…」そう言ったきり、刑事はぶつぶつ独り言をこぼしていた。しかし、ふと彼が話し出した。 「そういえば、君は何でこんな所でカレーを食べているか、知ってる?」 「いえ、知らないです」 「じゃあ教えてあげるけど、君にとってはかなり残酷な事実だけど、いいかい?」 「いいですよ」 「君の両親と弟くんが昨日の真夜中に殺害された。そして、…」石橋を叩いているような話し方で言うと、更に続けた。 「犯人は、こずえちゃんのお父さんなんだ」利保はしばらく固まっていたが、突然、堰を切ったように涙が出た。その涙を、決して拭かなかった。 こずえちゃんのお父さんの証言や現場検証から、事実は固まってきた。 午前一時頃、玄関のドアを開けようとしていた利保の父を背後から心臓を狙って刺し、即死させた。その後、彼は居間で寝ていた利保の母に突然刃を向けた。直ぐに彼女も目覚め、応戦するも、相手は大柄な男だった。やがて、虫の息になった彼女に、大量のカレーをかけて、窒息死させた。 彼はそのまま他の部屋を探し、見つけた利保の弟を刺殺した。これもまた、即死だった。 この残酷な事件はしばらく昼のラテ欄の常連になった。 そして、容疑者の目的は、戸部こずえの殺害唯(ただ)一つだった。容疑者の言葉を借りると、あんなヤツー利保のことだーと仲良くする娘なんて、我が子のように思えないらしい。 この事件で両家が滅茶苦茶になったのは、想像に難くない。こずえちゃんの家族は、遠い場所に引っ越しを行い、利保と生き残った兄は、親戚の家に身を寄せることを強いられた。 ここで、一つの奇跡が起きた。二人の転校先が同じだったのだ。 利保にとって、この事件は三つの思いを強固にした。一つは、本当に人生は山あり谷ありであること。もう一つは、こずえちゃんとの絆がより強くなったことだ。  そして、この言葉を伝え続けた。貴女は違う。殺人を犯す狂気の人ではないと。
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