少女珊瑚とねこ

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その子が驚いた顔をした理由は、もちろんわかっている。そりゃもちろん、四つ足の生き物が、二足方向にシフトチェンジすれば、びっくりもするだろう。 「……こんばんは、良い夜ねっ」 私は消しきれない四つ足の残り物、三角の耳と長い尻尾をひょんと揺らした。 ここは小さな部屋だ。 私は寒さをしのごうと、なんとかなんとか、扉の隙間に潜り込んで、さっきまで寝ていて、いま起きたものだから、ここが小さな部屋で、目の前に女の子がいることしかわからない。 小さな女の子は眠たそうにしながら、私を見つめていた。それから「あおうおう」と、猫の鳴き声よりも不明瞭な声を出してから、喉を触る。不自由なのかと思ったらそういうわけではないらしく「なんでここに?」と小さく言った。 「夜が暗くて、寒いから。じゃましてるの」 「……ん、んなん、なな。あ、う、しゃべるのひさしぶりで、調整できないな……」 彼女はひとりでぶつぶつと言いながら、あーとかうーとか声を出す練習をしていた。猫である私より、人間の彼女のほうが声を出すのが困難だなんて、へんなはなしだ。 まあ、猫の私には関係ないわけですが。 「きみ、名前は?」 「……さんご」「珊瑚?きれいな名前なのねっ」 「……」 珊瑚は、私を見つめて、また何度か瞬きをした。私が人間の姿で入ってきたときよりも、驚いた表情が見える。んんん?なんで? 珊瑚は、子供用の小さなベッドから、足だけをおろし、ぶらぶらしながら、私を見ている。 「じゃあ、あなたは?」 「私?私はただの猫だから、名前なんてあるはずもなく」 「そう」 珊瑚は事実にただ頷いてみせた。 お猫様に名前がないなら、優しくつけてくれたらいいのにっ。いまさらだけど、へんな子だ! 「猫だから」 「……にゃん」 「裸なの?」 「……」 私は、自分を見下ろす。たしかに私は裸だけど、猫は毛皮あるわけだし、人間って全然守れてないのね。 珊瑚は、瞳をとろんとしたままで「む」と言ってから、指同士を擦り合わせていた。そうしてぽむっという軽すぎる音ともに、私は服を着ていた。見たこともない服だ。襟のついたシャツと襟のついた上着、短くてぴったりしたスカートからかろうじて尻尾が顔を出す。
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