代償

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ざあ、ざあ。 風が木々を揺らす不気味な音に目を開く。 「…?」 見覚えのない森に立っていた。 辺りを囲むのは大きな木々。足首まである草が肌をチクチクと刺して痛痒い。 ここは一体どこだろう? 自分は今さっき自宅のベッドに入って眠りに付いたところだったはず。 「…はぁ」 やれやれとため息をつく。落ち着いていた。この状況に心当たりがあるからだ。 そう、これはきっと、夢の中。 昔から仕事に追われている時や人間関係に悩んでいる時など、 体や心が疲れきってしまった時にはこういう妙な夢を見るのだ。 夢の中で夢だと気付く夢…こういうの何ていうんだったか。 前髪を揺らしていく風の生ぬるさを感じながら「最近は残業続きで忙しかったからな」と1人で納得する。 見上げると、木々の間から覗く真ん丸な月がわずかに辺りを照らしてくれている。 遠くで車の走る音が聞こえる。道路が近くにあるんだろうか。 「こんばんは」 暗闇の中から声がした。 さくさくと草を踏みしめ、誰かが近付いてくる。恐怖で無意識に体が強張るのを感じた。
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