代償

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「っはあ!はあ、はあ…あ…」 荒い呼吸で飛び起きた。 体中にぐっしょりと汗をかき、喉はカラカラに乾いて口の中に舌がはりつく。 夢、なんという悪夢だろうか。 先ほどまでの恐怖を思い出し、寸でのところで現実に引き戻されたことに安堵した。 外からわずかに聞こえる鳥の鳴き声に、なんとか息を整えようと胸を摩る。 今何時だろうかと時計がかかっている壁に目をやるが、時計は見えない。 いやに部屋が暗いのだ。 隣で妻が身じろぎをする気配を感じ、起こしてしまったかと顔を伺おうとするが、 暗すぎてその顔も見えない。 「…?」 暗い。真っ暗だ。 ベッドサイドのデジタル時計の画面すら。 カーテンの隙間から差し込んでいるはずの日の光すら。 ふとんを握りしめる自分の両手すら見えない。 全身がぞくりと震えた。 何も見えない。 真っ暗な、闇の中にいる。 「いや…そんなわけ、ない。そんなわけないだろう。あれは夢だ。夢…ただの夢…」 全部夢だ。奪われた?そんなこと、あるわけない。 ああ、そうだ。 きっとまだ、夜中なのだ。月の光も届かない、暗い暗い真夜中なのだ。 そうだろう? なあ。
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