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第一章 僕と夢
頭に鋭い痛みが走り僕は目を覚ました。
目を覚ましたはずなのに僕の視界は真っ暗。ああ……目が見えないのは嫌だな……
「お兄ちゃん……」
弱々しいその声の方へ顔を向けると妹の夢の姿だけが闇の中に見えた。
夢の姿をマジマジと見る。体はやせ細り、頬もこけてはいるが怪我はなさそうだ。
「お兄ちゃん、そんな所で寝たら風邪ひいちゃうよ?」
ゴミ袋のベッドから体を起こし、部屋を見渡す。
部屋には至る所にゴミが散乱しており、腐臭が漂っている。
照明はもう何日も前から付かなくなっている。だから夜になると窓から差し込む月明りが唯一の光だ。
「お母さんは?」
「わかんない……」
お母さんは僕と夢が邪魔だという。週に一度、賞味期限の切れたコンビニの弁当やお菓子を持ってくるだけ。顔を合わせる事もなくまたどこかへと出かけてしまう。
僕と夢はそれでなんとか食い繋いで生きてきた。そんな日々――
「これだけ?」
母から手渡されたコンビニ袋にはパンが一つ、ジュースが一本。
「それだけよ」
母は僕から目を逸らし、キラキラの鞄を肩から下げ、家から出る準備をする。
「お母さん、行かないで!」
夢は泣きそうな顔で母の脚にしがみつく。
「ちょっと、離しなさいよ!」
手を振り上げる母から僕は夢を引きはがし、母から夢を隠すように抱きしめる。
「なんなのよ……私が何したっていうのよ」
震える声の母の顔を僕は見上げた。
そこにあったのは母の顔ではなかった。
その後の事は覚えていない。
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