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第二章 ラーメン
腹の虫が鳴く。
「お兄ちゃん、お腹空いた」
「パンは?」
「食べちゃった」
母から最期にもらったパンの包装がテーブルに置かれている。
ジュースはなぜか床にすべて零れ落ちていた。
僕は何か食べられるものはないかとゴミを漁るが、全部腐っていて、とてもじゃないが食べれそうになかった。
「お腹空いた! ……うわあああん」
泣き出す夢に僕もつられて泣きそうになる。言っても僕と夢は2歳しか離れていない。自分ではどうしようもない事態にそれ以外できることはなかった。
チャラリ~ララチャラリラリリ~♪
僕が泣き出す5秒前、外から聞きなれない音色が聞こえた。
僕はその音色の聞こえた窓から外をのぞき込む。
窓から見えたのはラーメン屋台だった。
フードを深く被った小太りの男が「ラーメン」と書かれた暖簾のついたリヤカーを曳き、
チャルメラを吹いていた。
「ラーメン屋さん?」
「ラーメン! 夢ラーメン食べたい、お兄ちゃん!」
さっきまで泣いていた夢が目を輝かせ僕の服の裾を強く引っ張る。
僕は迷った。
母からは家の外に出てはダメだと言われていたから。
前に黙って外に出たのが母にバレた時は僕も夢もいっぱい叩かれ、
いっぱい怖い目にあった。
そうこうしている間にチャルメラの音色はどんどんと遠くなっていく。
「う……うう……」
夢はまた泣き始める。
さっきは僕の服の裾を強く引っ張っていた夢の腕の力がまた弱々しいものに変わる。
この音色が聞こえなくなった後、僕らはどうなるのか。ぼんやりとした疑問と不安が僕の
中に広がる。そして――
僕はゴミが散乱した部屋の中から保育園に通っていた時に作った牛乳パックの貯金箱を探し出し、中身を取り出す。
十円玉が三枚。
それをポケットに押し込み、夢の手を握る。
「夢、ラーメン食べよう!」
夢は目を輝かせ
「うん!」
僕は玄関の重い扉を開け、夢を連れて外へ出た。
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