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第三章 豚
「はあ……はあ……」
外に出てラーメン屋台が通った路地へと向かう。
ただそれだけで僕らは息が上がってしまっていた。
チャルメラの音色が聞こえない。
もうどこかへ行ってしまったのか。
ぼんやりとした不安が僕にのしかかる。
しかし、ラーメン屋台は僕らを待っていたかのように路地の脇に根をおろしていた。
僕らは店主に声を掛ける。
「すみません、ラーメンください」
「ください」
ポケットの中の三十円を店主に差し出す。
店主は少し間をおいてお金を受け取る。
「座んな」
店主は調理の準備を始める。
僕と夢はラーメンが食べられることに喜びながら、丸椅子に座った。
喜んだのも束の間、屋台の照明で照らされた店主の顔が見え、僕は固まった。
フードで見えなかった店主の顔……いや、頭は豚だった。
「おじさん、豚さんだ!」
「夢!」
「ああ豚さんだ、嬢ちゃん。豚さんの作るラーメンだ」
にやりと不気味に笑う店主。
はしゃぐ妹に反し、僕は言葉が出なかった。
そうこうしている間にラーメンが出来上がり、僕らの前に差し出された。
そのラーメンのスープはやや赤く濁っており、中にはちぢれ麺、卵、メンマ、ネギ、そぼろ肉が入っている。
豚のラーメン、今思えば豚骨ラーメンではないのかと疑問に思うはずだが、それよりも食欲が勝った。
「いただきます!」
「い、いただきます!」
そのラーメンを一口食べた瞬間、涙が僕の頬をつたった。
「おいしいね、お兄ちゃん!」
「うん……うん」
店主は僕らをじっと見つめ
「そうか……よく味わって食べな」
妹は満面の笑みでそのラーメンを食していたが、僕は終始涙が止まらなかった。
食器を片付け、ラーメン屋台を畳む店主。
「また来てくれますか?」
なぜ僕はそんな事を聞いたのか。
店主はまた少し間を空けて
「もう来ねえよ」
「え~豚のおじさん、また来て~ねえ~」
店主の脚に抱きつく夢。店主は夢の頭に優しく手を置く。
「大きくなった時……もしかしたら会えるかもな」
「ほんと?」
店主は不気味ににやりと笑い、ラーメン屋台と共に夜の闇へと去っていった。
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