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近くで住んでるのか、ぼさぼさの髪にノーメイクで、パジャマかと思うワンピースタイプのグレーの服に、ダサい真っ赤なサンダルを履いてる。別に私には気づいてなさそうな感じだったのに、ドアを開けっ放し。ほら、手で押すタイプのやつで、最後まで押し切ると開けっ放しにできるやつ。真夏の真昼間にクーラーがガンガンにかかってる時期なのに、普通は考えるでしょ。
レジでもその人の後ろになったんだけど、何かイライラして店員に気を使わせてる。
お金を放るな、お金を。
いるよね、こういう威圧的な人。
結局、レシートがいるか聞いてくる店員を無視し、またドアを開けっ放しにして出て行った。
でもよくよく考えると、あの女も虫みたいだ。自分の買い物以外は何も考えてない。目的の為だけに動いているのは虫と同じだ。
ああいう風に、余計な事を考えずに、自分の事だけ考えられるようになれたらどんなにいいだろうか。
その日、浅い眠りの中、夢を見た。
私はスズムシになっていた。
一心不乱に羽を擦って鳴いていた。
そこにお母さんがやってきて、宿題は終わったの? と私に殺虫剤をかけた。
私は苦しくてのたうち回って、助からずに死んだ。
死んだ私は、幽霊になってふわふわと浮いた。
お母さんとお父さんがリビングでご飯を食べている。その横で小さな子供がいるけど、あれはきっと私はなんだろう。
ご飯をボロボロと落としながら、満面の笑み
で時折笑う。
とても羨ましくて、私は目を逸らした。
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