黒の葉月

1/8
前へ
/8ページ
次へ

黒の葉月

   夏は暑いという認識は当たり前である。しかし今年の夏は例年と比べ物にならないほどの猛暑だ。 日中は湿度の高い気温に苦しめられ、生きている事すら苦痛に感じる。  夜になれば多少は涼しくなるだろうと甘い予測を立てていた私は馬鹿だ。  家にいても退屈だと感じ夜風に当たるために外へ出たが、温度は全く変わっていない。  私の移動手段は徒歩と電車だ。地元にいた頃はもう一つ自転車という手段もあったが大学に進学し、この町へ来てからは乗る機会がなくなった。  大学生といえば電車の他にバイク、自動車などといった手段も増える。生憎今の生活にその二つの必要性を見い出せないので、運転免許書を取る気も起きない。  郊外に位置するこの町はとても静かだ。昼間はそれなりの交通量もあり生活音も聞こえるが、夜になれば虫の鳴き声しか聞こえなくなっている。  気温が高くとも夜風は多少なりとも涼しくて少し安堵を覚えた。これがサウナのような熱風になっていたら家に戻っていた。   周りを見渡すと一軒家が立ち並んでいる。全ての家の明かりが消えており、まるで廃墟に来ているような気分になる。     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加