真夜中の帰帆島

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滋賀県草津市矢橋帰帆島。琵琶湖に浮かぶ小さなその島は浄水場施設として作られたものらしい。水のきれいさをアピールするためか、島内には公園やプールなどの施設もあり家族連れでにぎわっている。 しかし僕は知っている。この島にはなにか秘密がある。使われていない施設の多さ。異常に増えている野良猫の群れ。夕暮れに集まるカラスたち。 そして最大の疑問「帰帆島内22時~5時閉鎖」の看板。 なぜ島を閉鎖する必要があるのか?浄水場が閉まるから?それだけで他の施設から道路まで立ち入り禁止にする必要があるだろうか? ネットで調べても答えは出てこない だから僕は帰帆島を目指した p.m.24時。自転車を走らせる。 帰帆島に続く橋に差し掛かる。昼間は太陽を反射していた琵琶湖の水面は真っ暗で見えない。この橋から落ちたら闇の中に吸い込まれるんじゃないだろうか。 僕の体にクモの巣が引っかかる。手で払いのけるもまた引っかかる。嫌になって姿勢を低くしたとき、違和感を覚えた。 こんな広い橋の上、どこにクモの巣が張っているというのか。 いったいさっきから僕の体にまとわりついているのは何だ? 何かがこの先に行くなと引き留めているんじゃないのか? ブモゥ、ブモゥ どこからか聞こえるウシガエルの声。 街灯のまわりでは蝙蝠たちがダンスを踊っている。 僕の体が震えたのを感じる。 怖くて震えているんじゃない。 怖いと感じていることに震えているんだ。 夜ってこんなに怖いものだっけ。 並ぶ街灯の終わりは見えない。 本当にこの橋に終わりはあるのか? あったとしても、そのさきでは帰帆島がすっぽり消えてしまっているんじゃないか。 心臓のバクバクが止まらない。 だから僕は、向こうに見える闇にむかって、自転車を漕ぎ続けた。
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