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「ちょっと待って、準備運動」
Tシャツを脱いで屈伸や手首足首を回す運動を始めた僕を見て
「昨日はいきなり飛び込んだくせに」
とかほがからかった。
「あの時実は腹打ちしてさ、けっこう痛かった」
ちゃぷちゃぷと水を心臓あたりに掛けてから、足からそっとプールに入った。
「急におじいちゃんみたい」
「うるさいなぁ。よし、いつでもどうぞ」
「はい、スタート!」
「はふっ」
息を吸い込むとゆっくり泳ぎ始めた。
平泳ぎなんて何年ぶりかな。でも不思議なもので体がちゃんと覚えている。
両手を広げて両足で水を掻いて。
ここで息継ぎ。
プールの真ん中辺りを過ぎると、ちょっと不安になる。
急に真っ暗な世界に放り出されたみたいだ。聞こえるのは自分が掻いた水音だけ。
ちゃんと見てるかな?大きな声は出せないから、かほは黙って僕を見ているはずだ。
ターンをして引き返す頃には、これ本当にかほは楽しいのかな?と心配になってきた。
いや、もともとかほを楽しませるのが目的ではないんだけど。
「おかえり」
「た、ただいま?」
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