ロスタイム

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 腕時計がピピピッと短い電子音を立てた。見ると丑三つ時を知らせている。  どうやら、いつの間に眠っていたらしい。固い地面でも心地よく眠れたのは、背中に感じる日の温もりの所為だろうか。それとも、懐かしい夢を見ていた所為か。  身体を起こすと、灯台の明かりが黒い海に一筋の光路を放っているのが見えた。ちょうど、雲に隠れていた満月が姿を現すと、月の光を降り注いだ瞬間、海全体が青白く輝き、一際強い風が吹いた。温もりを全て奪い去る冷たさに、鳥肌が立つ。  そろそろ帰ろうかと立ち上がろうとした時、誰かが歩いてくる気配を感じた。体重が軽そうな足音だ。低い体勢で待ち構えていると、少し離れた場所に腰掛けるシルエットが見えた。ちょうど、父と釣りをする時の定位置となっていた場所だ。  手ぶらのようだったから、釣りに来たのではないらしい。僕と同じように、散歩ついでに海を見に来たのだろうか。帰るには彼の後ろを通らなければならないが、彼を脅かせずに移動する自信がなかった。どうやって気配を出そうか考えていると、少年がおもむろに立ち上がった。  そして、月明かりを浴びたその表情に、僕は言葉を失った。
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