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真夏の夜が、好きだった。
生温い空気が全身を包み込む。昼間に吸い込んだ太陽の熱を吐き出すコンクリの道路に、私は仰向けになって夜空を眺む。金平糖を夜闇に散らしたみたいな星空が、私を待ち構えていた。手を伸ばす。けれど、遠い。掴めることはない。どれだけでも、どれだけでも、遠い。私とあの星が手を繋ぐことはない。赤の他人だ。けれど、私はあの星を眺め、綺麗だと思う。
なんだか自分勝手だなと思いながら、私は今日も目を瞑る。道路の真ん中で、死を願いながら、目を瞑る。しかし、今日も死は訪れそうにはない。息を吸って、息を吐く。呼吸音だけが空気を震わせる。
やがて星は消えて、太陽が私の目を覚まさせる。自然の目覚まし。眩しさに目を慣らしながら、とぼとぼと数分歩いて、私は自宅の玄関を開ける。
「今日も生きていたか」
娘の自殺願望を知っている母は、リビングのソファに寝っ転がりながらあっけらかんとそう言った。毎朝の日課だった。私が帰ってくるたびに、同じ台詞を吐く。まるでオウムのようだ。この人こそ、生きているんだか、死んでいるんだか、もはやよく分からない。
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