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「大丈夫ですか?近所の方から通報がありました」
地面にへたり込み脱力した。
お巡りさんが3人、わたしの部屋に入っていき、奥から怒号が聞こえた。
「だ、大丈夫ですか?叫び声が聞こえたからびっくりして通報したんすよ」
気力を振り絞って声の主を見ると、あのコンビニのユキオだった。
「コンビニの……」
「実はおれの部屋、隣なんすよ」
コンビニのユキオは、テヘヘと照れ臭そうに告白した。
「……ユキオ」
「あれ、そう俺ユキオっす」
「あなたがユキオ?」
「はい。僕ユキオっすよ」
なんか違うと思った。軽すぎる。
「わたしの歌、聴いたことあります?」
「ありますよー毎晩」
じゃあやっぱり彼がユキオ?
いや、なんか違う。
彼の後ろに女の子がいるのに気づいた。
「ゆっくん?大丈夫だったの?」
「なんかやっぱ通報して正解だったっぽい」
「えーマジ?おねーさん大丈夫ですかあ?」
ユキオの彼女だと一目でわかった。
「俺の奥さんっす」
奥さん⁉︎若っ!
よく見たらお腹がふっくらしていた。
「あのー……こんな時になんですけど、夜中に歌うの止めてもらえませんか?」
館長が手錠をかけられて出てきた。
「午前1時40分に逮捕しました。詳しいことは署で調べます。あなたにもお聞きしますので、明日来てもらえますか?」
「……わかりました」
「救急車、呼びましょうか?」
「だ、大丈夫です」
館長はこちらには目を向けず、なにかブツブツ呟いていた。
廊下の向こうには人だかり。
階下にも真夜中だというのに人が溢れていた。
「ゆっくん、マジ人助けーすごーい」
「本当に助かりました。ありがとうございました」
妻に褒められ照れるユキオくんに深々と頭を下げた。
「いやーぶじでよかったっすよ」
「夜中の騒音もごめんなさい」
わたし今すごい顔真っ赤だと思う。
人に迷惑をかけてた。
「あたし寝るねー」
「あ、みーちゃん待って。それじゃーご無事でなによりでした」
妻を追って慌ただしく部屋に消えるユキオくんを、頭を下げて見送った。
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