真夜中の独立宣言

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 シンデレラ城の中は真っ暗だった。僕らは小さな明かりだけを頼りに、四つんばいになって進んでいた。それぞれの喉ぼとけにつけられたネックライトは、猫の首輪の鈴のように、まあるい光を放っている。ちりんちりんという音を光に変換したら、まさしくこんな眺めになるだろう。  頭をくっつけながら、ようやくたどり着いた窓から眼下を見下ろすと、パークの中を、巨大なかぼちゃのオブジェが運ばれてゆくのが見えた。  この真夜中を境に、夏が終わる。パークは明朝からハロウィン月間にはいるのだ。たった一晩でパーク中の表情を変える転換作業に忙しい地上の作業員たちは、僕たちに気がつくはずもない。 「本当にやるの?」 「やる。今日から三ヶ月が勝負だ」 「次の転換日、あのかぼちゃがクリスマスツリーに変わるまでに、結果を出す」  僕の問いに返された、迷いのないふたりの返事。ボスもチーターも、本当に僕と同じ人間なんだろうか。日本人なんだろうか。大学生だというのも信じられない。宇宙人だと名乗られたほうがよっぽど・・・。  僕は震えてどうにも力の入らない手で、ポケットから地図をとり出した。ありふれた、日本列島の地図。ぬりつぶされた赤い場所はこのパークのある場所、千葉県。目玉をかけばチーバくんになる。地図上のチーバくんの周りには、びっしりと細かな書き込み、そしてずらりと並んだ暗号。僕が書いたものだ。そう、計画にぬかりはない。    自らの文字に励まされた僕は、背中からノートパソコンを下ろして起動させた。これは僕の広背筋・・というより甲羅だ。これがある限り、誰にも負けやしない。  メールソフトに保存された一文を、今いちど三人で確認した。 「我々「REAF・C」は、このメール送信をもって宣言する。今、この時より、千葉県を日本国より独立させるため、活動を開始する。」  千葉県のもつ土地、産業、歴史。そして財産のひとつ、ディズニーリゾート。だいじょうぶ、千葉はやれる。国家として立っていける。  国家には新しい城が必要だ。僕たちはひとつの象徴として、シンデレラ城を占拠する。手始めはここから。  送信ボタンを押した僕の手は、もう震えていなかった。                           
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