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扉が閉まったことを確認すると、類はファスナーをおろし、なんとかドレスを脱がせてやる。ドレスあ適当にクローゼットに引っかけ、ついでにピアスも外してナイトテーブルに置いた。十代の頃のプレゼントをまだ大事に持っていてくれるというのは、今夜一番の心温まるできごとだ。少なくとも、これくらいの面倒は甘んじて引き受けようと思う程度には。
下着姿のホリーをシーツに包んで、部屋を出る。化粧をしたまま眠ってしまったことを明日のホリーは大いに嘆くことだろうけど、そこまでは面倒みきれない。
アレックスはリビングにいて、テレビの後ろ――壁一面に描かれたデイジーを熱心に見ていた。類に気付くと、振り返って言った。
「ひょっとして、これはきみが?」
「ええ、まあ」
まだ帰ってなかったのかと言いたいところをぐっとこらえ、類は努めて明るくたずねた。
「コーヒーでも?」
しかしアレックスは類の質問を無視し「ホリーと付き合ってるなんて嘘だろ?」とあざ笑うように言った。
おっと、そう来るか。
正直、その質問を想定していないわけじゃなかった。類を恋敵と認識しているのであればなおさら。
「なぜそう思うんです?」
「きみたちはお互い信頼し合っているようだが、瞳に情熱がなかった」
なんだそりゃ。
「今はいろんな形の愛があるんですよ」と、キッチンに移動しながら類はおざなりに答えた。
――それで? コーヒーはいるのか、いらないのか。
待っていても返答は得られそうもない。類は勝手にふたり分のコーヒーの準備をはじめた。最終的に追い返すにしたって、一応はもてなす意思を示すのは礼儀だろう。
アレックスは軽く眉を上げただけで、視線は壁のデイジーに戻っていった。
納得した様子ではないが、彼の視線から逃れられたことに類は安堵した。あの青みがかった灰色の目は、類をひどく落ち着かない気持ちにさせる。
豆を挽きはじめた類をふたたびその目が見つめていることに気付いたが、敢えて知らんぷりを決め込んだ。
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