第七章 眠りを忘れたひとへ

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 少しばかり車を走らせると直ぐに、都内の教会に辿り着いた。俺が余り好きではない場所────全く的を得た説明だ。  車中もずっと、サーシャは黙り込んでいた。それでも何時も通り素早く降りて助手席の扉を開けてくれる辺り、彼の紳士道はしみついたもののようだ。  その日は丁度レクイエム奉唱会が行われる日だったようで、沢山のひとが教会に訪れていた。俺たちは一番後ろの隅の方に座り、ぼんやりと流れる人波を眺めていた。  奉唱会が始まる。一部はバロック期のアンセムや聖歌を集めたコンサート形式のもので、様々な編成で時代も多彩な音楽を聴かせてくれた。  二部のレクイエムは、モーツアルトが選ばれていた。厳かなパイプオルガンの音色に乗せて、合唱団の美しい唄声がモーツアルトのレクイエムを歌い上げてゆく。死者の永遠の安息を祈る為の奉唱会。
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