第七章 眠りを忘れたひとへ

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「親愛なるアレクサンドル────。幾度目かの中国の大地に私は今立っています。仕事は片付いたのだけれど、やはり引き寄せられるようにひとつの村へと足が運びました。しかし何度行っても変わらずに、僻村の現状は目を覆うものばかりです。貧しさが精神を締め上げ、絶望が満ちている。そんな中で、昨日出逢ったひとりの少年にロザリオを差し上げたのです。彼は涙を流して喜んでいました。近々アメリカから神父様が来るそうで、皆聖書を読んで頂ける事にとても喜んでいます。この地では、イエスは希望です。信仰は支えです。何時かこの祈りを聞き届け給うた神が救って下さると、そう信じている。とても胸が苦しい。彼等の瞳を真っ直ぐに見る事も出来ず、私は曖昧に微笑むばかり。彼等は救われるのだろうか。神は彼等の想いに応えてくれるのだろうか。祈りを疑う私は、やはり既に神の加護が遠く及ばぬところにいる事を思い知らされるばかりです。こうして貴方に嘆く私は何時までも、弱い人間なのですね。それと、貴方の問いへの答えですが、私が貴方の信頼を裏切る事は絶対にあり得ない。ですが、貴方の心が酷く揺らいでいる事を私はとても心配しています。どうか、貴方の愛するひとを責めないで欲しい。傷付き壊れた心を癒してあげて欲しい。これは彼の為ではなく、貴方の為の進言である事は貴方も分かっている事と思うのだけれど、心配症な私をどうぞお許し下さい。私は何時でも、誰より貴方に忠実である事をどうぞ忘れずにいて────ヨハン」
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