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彼は手紙を読み終えると、再び綺麗に折り畳んで封筒にしまい込んだ。それを見届けて、俺は慎重に問う。
「誰?」
話しの流れ的に天羽さんからの手紙だとばかり思っていたが、ヨハンなる人物に覚えはない。サーシャは小さくああ、と漏らし、飲みかけの珈琲に再び口を付けた。
「巽の名前だよ。天羽巽などと言う名前のロシア人がいるものか」
言われてみれば、確かにそうだ。
俺は本当に天羽さんの事を何も知らない。サーシャが教えてくれなければ、本当の名前すらも知らなかったんだ。それでも、彼の存在がこんなにも胸を締め付ける。
不思議な心地だった。共に地獄へと堕ちる事を知った遥か遠い日。死の先で再会するはずだった俺たちが現世での再会を果たし、そして今、俺は彼を愛し、愛されたいと望んでいる。目に見えない何か、強い力────これを、やはり運命と呼ぶのだろうか。
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