序章

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 この世界には、絶望しかないと思っていた。  人は皆腹の底では醜悪で悍ましい化物を飼っていて、殆どの場合は死ぬまでそれを檻の中に閉じ込めておく。そうしなければ、人間社会を生きてはゆけないから。だが初めてその檻を開け放った人間に出逢った時、俺は絶望を知った。そして、それがこの世界の全てのような心地がした。  神を信じ、他人に優しく、良い行いをして、熱心に祈りを捧げていれば救われると言われていたのに。誰が俺を救ってくれた。何もかもを奪われ、それでも尚、無情にも傷付けられる。一体神を信じてどうなる。祈りに何の意味がある。  神は俺を見放した。だから、俺もまた神を見放してやる──。絶望を知ってからそう思い、生きてきた。  けれどあの日俺が出逢った男は、全く違う景色を見ていた。俺の見る絶望の向う側、まるでその遥かを見詰めているような。
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