父親

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 望美が食べさせると口を大きく開けて食べるが、隆子が食べさせようとすると、意地悪するように、口をまともに開けなかった。  お粥はあごから首へと伝い、寝間着を汚した。着替えさせなくてはいけなくて、隆子の仕事を増やした。  着替えさせて、もう一度食べさせいるうちに、開店時間となる。隆子は慌てて身繕いをして、自分は朝食抜きで店を開けることなど珍しくなかった。そのとき宵っ張りの夫は、高いびきを掻いて寝ていた。  食欲がないはずなのに。  豊乃は目が覚めている間、思い出したように。  腹が減った。隆子が食事を与えない。  布団の中から大声でわめき立てた。  おまえは俺の母親に飯を食べさせてないのか。  夫は隆子を疑った。  疑うくせに、自分は昼食用のパンと紙パック牛乳を離れに運ぶだけで、食べさせてはいない。望美が夕食を運んでいくと、パンも牛乳も、封すら開けてなく、まるでお供えのように、豊乃の枕元に置いてあった。  本当にお腹が空いていれば、自分で開封するなり、息子に封を開けさせて、食べさせろと要求するはず。  なんて性悪なおばあさんだ。  小学生の望美は怒り、姑と夫に翻弄されている母を思うと、悲しくなった。  どんどん痩せていく豊乃を見ても、慈愛心など、てんで生まれなかった。  望美の回想。  背筋がザワリとなる。  その瞬間に陽香は覚れた。  豊乃は本当に食欲がなかったのか。  認知症に罹っていたのではなかったか。  隆子は夫と子どもに豊乃の精神状態は良好だと、思い込ませていなかっただろうか。  それはなんのために。  どうしてか。  その理由。  姑を見送り夫を傍に纏わり付かせたわけ。  食事をわざと食べさせなかった。介護に多大な苦悩をしていると見せかけていた。  夫にも、自分でパンの袋を封を開けないと、ヘソを曲げて夕食も食べてくれないと嘆いて見せていたのではのではなかったか。  姑と同じような歳になり、後悔した。  許しを得るために、同じように食を絶ち、黄泉へと旅立つ決意を固めたのか。  それは陽香の穿った想い?  構ってくれない浮気性の夫。  その夫と母の豊乃は仲が良く。  隆子は一人、寂しかった?  望美が薄く笑う。  陽香に首を振る。
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