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望美が実家から巣立ったあと。
隆子は冷凍庫の中身をきれいさっぱり跡形なく、処理していた。だからこれは事実。
だから望美はこの家から遠離りたかった。抗えない用事で帰郷しても、独りでは眠れなかった。
隆子が小物を作り始めたことも一因だ。
あの中に父親の骨が入れられている。
そう思い込んでしまった。
けれど。
思い詰めて隆子に問い質したのは、ずいぶん歳月が経ってからのことだ。庭の処分を決めたとき、望美はようやく話を切り出せた。
埋めた骨は、余すところなく掘り出したか。出した骨はどのように処分したのか。もしかして小物の中に。
骨はずいぶん前にすべて捨てた。
箱に溜めている小物は、いずれ店で販売できないかと、作り置いてあるだけ。売り物の中に骨など入れる愚か者はいない。
隆子に、一笑に付された。
けれど望美は隆子を信じ切れなかった。
熱のこもった制作光景は、鬼気迫るものがあった。何かに取り憑かれているような。
「お父さんの処理が終わったあとに、まさか愛人が訪ねてきて。ハルちゃんとひと悶着あったなんて、初耳だったわ。……ハルちゃんが女を殺した。お母さんが殺害した。庭に埋めた。だけど、それはあくまでも想像の域を超えてないね」
望美はあり得る可能性を示唆する。
以前の自宅近辺は猫の通り道だった。
庭で数匹の猫が集会をしていたことなど、日常茶飯事だった。大きなオス猫同士が喧嘩しているような声もしょっちゅう聞こえていた。庭でハエが集っていたのは、喧嘩で負けたオス猫だろう。思い込みが見間違いさせたのだ。
望美は言葉を続ける。
「マンションにあった冷凍庫は、職場の仲良しさんが家を建て直す間だけ預かっていたものだからね。もう戻ったから、無いよ。帰ってきて確かめたちいいわ」
「そりゃそうだろ。お父さんを解体しちゃえば、用済みだもんな」
ああ言えばこう言う里樹に、望美も反論する。
「元同僚が自宅をプチレストランに改築したの。その間に預かっていたものは冷凍庫だけじゃなくて、蒸し器に、寸胴鍋の大きなものが三つあったけど。気づいてた?」
「知っているさ。だけど、冷凍庫に中身が入っていた。その肉はなんだったんだ」
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