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「わたしのおばあさんって、何歳で亡くなったんだっけ」
「七十過ぎだったと、ばあばが話してたな」
仏壇にお仏飯を供えるときに聞いていた。
あ。里樹が小さく叫んだ。
なんとなく聞いて、聞き逃していたと。
「ばあば、豊乃さんと同じくらいの歳で死のうとしていた。実行した、のかな」
え? それは違うだろ。
とっさに反論が喉を突いて出かけた。
慌てて言葉を呑み込んだ。
否。もしそうだったら。
歳を取って食べられなくなったのよ。
まだ子どもの域を脱していない里樹を、そう言って騙すことはいとも容易だったに違いない。目的をすんなりと達成できるはずだった。
里樹が、ばあばの体調不良に気づいた頃には、望美と陽香に応援要請をしてくる頃には。
望美と陽香が隆子の元に駆けつけたときはすでに、目標の半歩手前、死を待つばかりになっていたはずだった。
そのような折、陽香が現れた。
陽香も里樹とさほど違わない。食欲がないと誤魔化すことなどいとも簡単だった。望美さえ来なければ完遂できると踏んだ。
その通り、陽香には為す術もなく、隆子は目標としていた七十代で旅立った。
本当は、今年ではないもう少し前に。
隆子は死ぬつもりだったのかも知れない。
望美から夫の不満を聞いていなければ。もしかしたら隆子と同じことをするかもと、望美が処理の予約して来なければ。
望美の希望を叶えるまで死ねない。
隆子は、そのとき、を伸ばしていた。
健二が居なくなった。離婚した。里樹が母に、父殺害の疑いの目を向けていると知ったあと。陽香は、健二から知らされていた緊急時連絡アドレスを含めたアドレスすべてに、メールを送ってみた。
日本国内ではもう使用しない。誰とも連絡を取る気はないという意思表示か。過去すべてと決別するためにか。一通も、メールは届かなかった。
陽香は、それにも引っかかっている。
様々な出来事、思考が錯綜している。
頭の中が交通渋滞を起こしている。
「でも、なぜ。同じくらいの歳で死のうとしたのかな」
里樹が寂しそうにつぶやいた。
望美が語る豊乃の思い出。
店で働いていたときはご飯を大盛りで食べていた豊乃も、寝付いてからは信じられないほど少食になった。離れに運ぶ食事は、小さなお椀の底に薄いお粥が、スプーン五匙ほど入っているだけだった。
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