嫌だから。

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嫌だから。

 「まいちゃん辞めるんだってね」  食事介助が終盤に差し掛かると、自分で車椅子を動かしたり、歩いたりできる利用者はトイレに向かい始める。自立できている利用者は良い。問題はできているようで、できないひと。例えば便で汚してしまう。あるいは衣類を下ろし切れておらず、お尻を濡らしてトイレから出てくる。  だから、職員が追いかけてゆき、手伝う必要があった。  (お喋りして、手を休めている暇なんか、ひとつもない)  自分で食べられない人に食事を介助する間も、周囲に目を配る。スプーンを落として椅子の下にもぐりこもうとして、そのまま転倒する利用者もいる。食事形態が違うのに、自分の食べ残しを隣のひとに与える人もいる。半介助状態の利用者が、必死でかきこんで喉に詰めかけていたりする。  介助の手を休めずに周囲に目を配る。更に、トイレに立ち去ってゆく利用者の後を追わねばならぬ。これが仕事である。  グループは特に人員が少なかった。  この特養は四グループに分かれているが、力の強弱がある。強いグループの言い分が通り、弱いグループはあれこれ言われる。     
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